2014年7月16日水曜日

20年以上「うつ」と付き合った私が学んだ大切なこと

Lifehackerに掲載されていた記事です。

               http://www.lifehacker.jp/a/2014/07/140710depression.html


  うつは、話すのがツラい話題です。でも、それを生き抜くのは、もっとツラいこと。実は私も、20年以上前からうつと付き合っています。そんな中でも、あきらめずに何とかやり過ごす方法を学んできました。
本題に入る前に、まずは免責を。ここに書くのは、あくまでも私の個人的な体験です。私は医者ではないですし、知らない人を診断したり治療する資格もありません。自分の状況についてはよくわかってますし、一般的なうつについてもたくさん学びました。とはいえ、あなたの個人的な状況については、専門家によるカウンセリングを受けてください。ここに書くのは、私にとって役に立ったことにすぎません。
それから、もしフェンスの逆側に立って誰かを応援する立場であれば、こちらのガイドを参考にしてください。
あなたの自己認識は間違っていることが多い
うつの最大の問題は、真実を歪めてしまうこと。いつもは楽しいことが楽しく思えないばかりか、自分のいいところが見えなくなってしまいます。うつになると、ネガティブな思考が消えることなく、何度も何度も巡ってきます。そしてついに、最悪のシナリオを真実だと思い込んでしまうのです。
「僕はこの型にハマったまま、抜け出すことはできないんだ」
「私には存在価値がない」
「誰も自分のことなんて気にかけてくれない」
「俺は何をやってもダメなんだ」
「もう、続ける理由なんてない」

特に強力なのが、あきらめろという言葉。このような考えに対抗することは、非常に困難です。なぜなら、それが真実のように感じられるだけでなく、それが一見真実だと思えるような状況にいる場合すらあるからです。でも、忘れないでください。そのような認識は、現実とは異なるということを。
うつの話とはずれますが、うつとは無縁の成功者であっても、認識と現実の不一致は比較的よくあることです。過去に、詐欺師症候群を紹介したことがありました。それは、身の周りには優秀な人ばかりなのに、自分は自分を偽っているだけだという思い込みです。どんなに成功している人でも、このような状況に陥ることがあります。でも、それは、脳をだます心の声の1つに過ぎないのです。
問題は、このような矛盾に立ち向かうモチベーションを、うつが奪い去ってしまうこと。うつを抱えていない人なら、たとえ自分が自分を偽っていると感じても、それは自分の頭の中で築き上げたイメージに過ぎず、誰もが同じように感じることがあると考えることができます。でも、うつを抱えている人は、本質的にそのように考えることが難しいのです。私の個人的な経験では、状況が変わって逆の証拠を見つけても、依然として最悪な考えから逃れることはできませんでした。なぜなら、脳がそう考えていたから。どれだけ外部検証をもらっても、まったく意味を成しませんでした。
この厳しい事実を、心に留めておかなければなりません。うつは、「おまえは人と違う」と主張してきます。もっと言うなら、「お前はルールの例外だ」と。そのようにハイな状態のときは、自分に対する認識は必ずしも真実ではないことを思い出すことが非常に大切です。

自分の感覚は完全に有効である

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上記のような状況を考慮すると、うつの人にかける言葉としては、「あなたの感じていることは意味のないことだから、感情を無視しなさい」というのが自然な反応なのかもしれません。「あなたは本当の敗者ではないはず。だから、元気を出して! ほら、楽しそうな顔を見せてよ。だって、悲しくなるような事実は何もないんだからさ」
でも、それは真実ではありません。あなたの感情と事実とは、本質的に異なるのです。たとえあなたが、尊敬に値する特徴を持っていたり、将来を約束されていたり、今すばらしい人生を送っていても、それについて自分が快く思っているとは限りません。そこがポイントです。うつは、根拠のある悲しみが問題ではないのです。むしろ、どんな状況であっても不幸に感じてしまうのが、うつの正体なのです
自分のうつに対する感覚は有効です。でも、その感覚を正当化したり、守ったりする必要はありません。自分の行為が自分自身や他人を傷つけないのであれば、感じることは自由なのです。誰もが、自分の状況を完全に反映しているわけではない感覚を持っています。うつを患っているからと言って、何かを感じてはいけないなどという特別なカテゴリーに属するわけではありません。ただ、自分の感情に、別の方法で向き合うことが必要なだけです。ほかの人たちは無意識のうちに感情と現実を分けて考えていますが、うつのあなたは、少しだけ余計なステップと、いくらかの助けが必要です。

誰かの助けが必要

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うつは、孤立をもたらします。うつは、次々とあなたの人間関係をむしばんでいきます。「誰も自分を気にかけてくれない、誰もわかってくれない、自分は誰も必要としていない」という心の声が、どんどん人間関係を壊していくのです。でも本当は、あなたには誰かが必要です。うつになると、自分の状況を正確に判断できなくなるので、他者からのインプットの重要性が増します。
うつにおいてもっとも怖いのが、それがあなたの頭の中にあるということ。風邪の場合、自分のどこが悪いのか、指し示すことができるでしょう。でも、うつの場合、自分の感情のどの部分が真実に基づくもので、どの部分が過剰反応なのかをいつでも把握できるわけではありません。これら2つを区別する方法を習得するには、他人と話すことが非常に重要な役割を果たすのです。
他人に自分のうつについて話すのは、あまり心地いいものではありません。信頼できる友達がいれば、あなたの言うことに耳を傾けて理解しようとしてくれるかもしれません。でも、そんな友達がいなくても、助けを求める手段はたくさんあります。そうすることは、何ら悪いことではないのだと知っておいてください。

助けを求めたっていい


「うつを患う人は不完全である」という考える人が多いような気がします。巷には、精神疾患は人を壊すという報道や統計があふれています(例えば、「うつが自殺の原因」「自閉症が大量殺戮の原因」など)。でも、現実はそれほど単純ではありません。うつだからといって、あなたは壊れているわけではないのです。
うつとは、心理的不適応です。うつのとき、自分の感情への反応は、他者と同じように調整されているわけではありません。ネガティブに考えるのが習慣になり、どう反応していいかわからなくかったり、ポジティブな感情の持ち方がわからなくなってしまします。でも、わからないだけで、できないわけではありません。幸せの源を失ってしまったわけではないのです。ただ、調整がうまくいっていないだけ。
うつの助けを求めることは、風邪や捻挫、もしくは健診で病院に行くのと何ら代わりません。誰もが身体の健康をチェックしてもらう必要があるように、精神面の健康も、専門家に診てもらうことが自然なのです。恥ずかしいことはまったくありませんし、誰にもあなたを悪く言う資格はありません。専門家に相談すれば、何かの手助けにはなるでしょう。

ずっと続くわけではない


うつに「治療」はありません。風邪や水ぼうそう、ガンなどとは異なり、身体の一部を指さして、「これがなくなればよくなるでしょう!」と言えるものが存在しないのです。うつは、心の中にあります。うつは、ある意味で人格の一部でもあります。うつの症状が収まっても、あなたの感じ方が、あなたを形作っているのです。だから、それを完全に排除する必要はありません。
でも、感じ方を変えることはできるはずです。神経可塑性については過去にも触れたことがあります。基本的に、脳は変わることができるという考え方です。自分の行動、習慣、周囲の環境が、自分の考えに影響を与えます。つい20世紀の中ごろまでの神経学者らは、小児期を過ぎると脳は変わらないと信じていました。その考えは、もはや事実としては受け入れられていません
神経可塑性とは、現在の習慣や脳のパターンが、一生続くわけではないことを意味します。変わることは容易ではありません。一生をかけて調節していく必要があるかもしれません。うまく適応できるようになっても、心の陰には、ゴーストが潜んだままかもしれません。でも、人はそれぞれ違いますし、誰もに共通するような完璧な解決策など存在しないのです。
裏を返せば、友達に「希望がある」と言われたら、それはウソではないということです。何年間も悪いことが続いていても、あきらめない限りチャンスはある。うまく行くチャンスが、きっとあるはずなのです。うつと戦っているあなたにとっては、ほんのわずかな希望の光が、生と死を分けることになるのかもしれません。
Eric Ravenscraft(原文/訳:堀込泰三)
Photos by Hyperbole and a Halfaubrey.