2013年2月9日土曜日

マインドフルネス瞑想(MBSRの「静座瞑想」)の性格


マインドフルネス」はパーリ語の「サティ」を英訳した言葉ですが、そもそもパーリ語というのはテーラワーダ仏教経典で使われている言葉です。
パーリ経典のうち、瞑想法に関する経典は 「マハーサティパッターナ・スッタ」と呼吸に焦点をあてた、「アーナーパーナサティ・スッタ」です。
これらについては、日本語訳を掲載してくださっているブログがありますので、感謝して紹介します。(多摩丘陵林住記 大念住経(大念処教)http://blog.goo.ne.jp/hhynk/e/5dfd915e6ed70b389d597c53a110d757
「マハーサティパッターナ・スッタ」(大念住経)は目次だけ掲示します。

一、身に関する瞑想      
 1 出息、入息の部
 2 行住坐臥の部
 3 正しい意識の部
 4 不浄観察の部
   5 要素の観察の部
 6 九段階の死体の部 
二、受(感覚)に関する瞑想
三、心に関する瞑想   
四、法に関する瞑想     
    1 五蓋(五つの障害)の部  (貪欲、瞋恚、こん眠、掉悔、疑)
  2 五蘊(五つのの固執される集まり)の部 (色、受、想、行、識)       
  3 六つの内・外処の部 (眼耳鼻舌身意、色声香味触法) 
  4 悟りの七条件の部(念、択法、精進、喜、軽安、定、捨)  
  5 真理の部     
   a. 苦の真理の部 
        b. 苦の因の真理の部
        c. 苦の滅の真理の部  
        d. 道の真理の部   

 アーナーパーナサティ・スッタについては、「呼吸による癒し」(L.ローゼンバーグ著
井上ウィマラ訳 P12)から経文の訳を引用します。(多摩丘陵林住記 出入息念経1  http://blog.goo.ne.jp/hhynk/e/d77fb31bec1a9eddd51cf4ea67002a30

1 身体に関する呼吸の気づき
(1)長く息を吸っている時には『長く息を吸う』と知り、長く息を吐いている時には 『長く息を吐く」と知る。
(2)短く息を吸っている時には『短く息を吸う』と知り、短く息を吐いている時には『短く息を吐く」と知る。
(3)『全身を感じながら息を吸おう。全身を感じながら息を吐こう』と訓練する。
(4)『全身を静めながら息を吸おう。全身を静めながら息を吐こう』と訓練する。

2 感受に関する呼吸の気づき
(5)『喜悦を感じながら息を吸おう。喜悦を感じながら息を吐こう』と訓練する
(6)『楽を感じながら息を吸おう。楽を感じながら息を吐こう』と訓練する。
(7)『心のプロセスを感じながら息を吸おう。心のプロセスを感じながら息を吐こう』と訓練する。
(8)『心のプロセスを静めながら息を吸おう。心のプロセスを静めながら息を吐こう』と訓練する。

3 心に関する呼吸の気づき
(9)『心を感じながら息を吸おう。心を感じながら息を吐こう』と訓練する。
10)『心を喜ばせながら息を吸おう。心を喜ばせながら息を吐こう』と訓練する。
11)『心を安定させながら息を吸おう。心を安定させながら息を吐こう』と訓練する。
12)『心を解き放ちながら息を吸おう。心を解き放ちながら息を吐こう』と訓練する。

4 法に関する呼吸の気づき 
13)『無常であることに意識を集中させながら息を吸おう。無常であることに意識を集中させながら息を吐こう』と訓練する。
14)『色あせていくことに意識を集中させながら息を吸おう。色あせていくことに意識を集中させながら息を吐こう』と訓練する。
15)『消滅に意識を集中させながら息を吸おう。消滅に意識を集中させながら息を吐こう』と訓練する。
16)『手放すことに意識を集中させながら息を吸おう。手放すことに意識を集中させながら息を吐こう』と訓練する。

ジョン・カバット‐ジン博士は、「呼吸による癒し」の序文で著者L.ローゼンバーグ氏を同じ道を歩む友、すなわち「ダルマ・ブラザーズ」であると紹介しています。
「マインドフルネス ストレス逓減法」には「呼吸により癒し」と共通している考えが多く見られ、「マインドフルネス ストレス逓減法」では記述されていない、テーラワーダ仏教的文脈を理解するのに役立つものと思われます。

項目を対比すると次のようになっています。
アーナーパーナサティ・スッタ
静座瞑想のエクササイズ(MBSR)
一 身体に関する呼吸の気づき
呼吸と共に座る
 『全身を感じながら息を吸おう。
全身を感じながら息を吐こう』
 呼吸と体の一体感を味わいながら座る
二 感受に関する呼吸の気づき
(音と共に座る)
三 心に関する呼吸の気づき
心の中の思いと共に座る
四 法に関する呼吸の気づき
あるがままの意識と共に座る

「呼吸による癒し」では、アーナーパーナサティの簡略な修行法として、アーチャン・ブッダダーサの「凝縮された修行法」を紹介したうえで、「伝統的な方法」と「マハーシ方式」を踏まえ、「無常を観察する前に禅定を深めなければならないという説にはこだわらないが、瞑想者にある程度の集中力を培う時間を与え、集中力が得られてからヴィパッサナーを導入します。この二つの修業は互いに補い合い強めあいながら共に成長していきます。静寂な心においては洞察も鋭くなり、洞察によりさらに心は静寂になります。それらは交互にリズムを取りながら一緒に成長していくのです。(「呼吸による癒し」P221)」と述べています。

この考え方は、マインドフルネス ストレス逓減法の「静座瞑想」にも通底しているものと考えられます。
・「心の中の思いと共に座る」エクササイズにはかなりの集中力が必要ですから、静座瞑想の最初の段階で2,3分間ぐらいだけ行ってください。( P113 )
・「あるがままの意識と共に座る」トレーニングはかなり練習を積んだうえで得られる落着きと注意集中力が必要です。( P108 )

 以上から、マインドフルネス ストレス逓減法の「静座瞑想」はアーナパーナサティ・スッタに則り、呼吸に対する気づきにより、集中力を高めながらヴィパッサナーを行う瞑想法であるといえるでしょう。

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